【社労士解説】106万円の壁が撤廃?社会保険加入の拡大が企業に与える影響と対策方法
2024年10月から、社会保険加入義務の対象が「従業員数51人以上の企業」へと拡大されました。しかし、さらなる改正として「企業規模の要件(51人以上)そのものの撤廃」が議論されています。これが実現すると、全ての企業において「週20時間以上」働く従業員は、年収にかかわらず社会保険への加入が必要になる可能性があります。
本記事では、社労士の視点から、この制度変更が企業に与える具体的な影響と、経営者が今から取り組むべき対策について詳しく解説します。
なぜ社会保険の加入対象が拡大されるのか
背景にあるのは、深刻な少子高齢化です。現在の日本の年金・医療制度は、現役世代が受給世代を支える「賦課(ふか)方式」をとっています。高齢者が増え医療費が膨らむ中で制度を維持するためには、より多くの人が社会保険の支え手となる必要があります。そのため、加入のハードル(壁)を下げ、適用範囲を広げる動きが加速しているのです。
企業が直面する2つの大きな課題
社会保険の適用拡大は、企業経営において「コスト」と「労務管理」の両面で大きなインパクトを与えます。
① 人件費(法定福利費)の増大
会社負担の社会保険料が増えることは避けられません。さらに、毎年のように引き上げられる最低賃金もあり、人件費は今後も確実に上昇し続けます。これを「仕方のない出費」としてやり過ごすのではなく、人件費増を見越した強固な事業計画を立て直す必要があります。
② 複雑化する労務管理の負担
これまで社会保険の対象外だったパート・アルバイト層が加入対象となることで、手続きの数や管理の複雑さが増します。適切な加入タイミングの判断や、月々の標準報酬月額の管理、随時改定の漏れなど、ミスが許されない業務が大幅に増加します。
今すぐ取り組むべき3つの対策

迫りくる制度改正に対し、企業はどのように備えるべきでしょうか。
デジタル化による業務効率化
「人がやらなくてもいい仕事」を徹底的にシステム化しましょう。
・セルフ化の推進: 飲食店のタッチパネル注文や、小売店のセルフレジ導入などフロント業務の効率化。
・バックオフィスのクラウド化: 紙やExcelでの管理を卒業し、アラート機能のある労務クラウドシステムを導入することで管理ミスを防ぎつつ工数を削減します。
高付加価値サービスへの転換
人件費が上がる以上、これまでと同じ生産性では利益が削られる一方です。従業員には「人にしかできない付加価値の高い業務」に集中してもらい、サービス単価を上げられる体制を構築することが人的資本経営の観点からも重要です。
プロ(社労士)へのアウトソーシング
法改正が頻繁に行われる現代において社内で全ての情報をキャッチアップし、完璧な手続きを行うには限界があります。
・複雑な手続きや法改正への対応を社労士に任せることで、自社の社員は本業(利益を生む業務)に専念できるようになります。
・調査対応やリスク診断など、プロの視点を入れることで、後々の大きなトラブル(未払い保険料の遡及支払など)を未然に防ぐことができます。
まとめ:変化を「経営見直し」のチャンスに
「106万円の壁」の撤廃議論は、これまでの「安価な労働力に頼るモデル」からの脱却を迫るメッセージでもあります。
・人件費上昇を前提とした事業計画の策定
・システム導入による徹底した効率化
・従業員への丁寧な説明と、合意に基づく環境整備
これらを早期に進めることが、これからの時代を生き抜く企業の条件となります。社会保険の適用拡大への対策や、労務管理の改善についてお悩みの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。最新の情報に基づき貴社に最適な対策を共に考えます。

この記事の著者
福岡社会保険労務士法人 代表社員 社会保険労務士 村里男樹
創業50年を超える歴史を持つ福岡社会保険労務士法人の代表社員。「手続きを代行するだけの社労士」ではなく、企業の成長と発展に本気で貢献する「提案型」の支援をモットーとしている。
強みは、労務相談や就業規則の見直し・作成といった基本業務に加え、勤怠・給与・タレントマネジメントなどのクラウドツール導入支援を組み合わせた総合的な人事労務の運用サポート。制度構築後の「運用」を重視し、労務環境の整備と企業発展に繋がる助成金の正しい活用にも注力している。