
算定基礎届(定時決定)を正しく作成するための最大の注意点は、「4月〜6月の支払基礎日数のカウントミス」と「リモートワーク手当など固定的賃金の変動に伴う随時改定(月変)の見落とし」を防ぐことです。
特にIT企業で導入の多い変形労働時間制や在宅勤務手当は計算ミスが起きやすいため、対象月に対象となる報酬が正しく含まれているかを必ず確認してください。
本記事では、実務担当者が迷いがちなポイントを絞って解説します。
算定基礎届の作成方法と手順はどうすればいい?
算定基礎届の作成は、「対象者の抽出」「支払基礎日数の確認」「報酬月額の集計」「届出書の作成・提出」の4ステップで進めます。
毎年7月1日現在、在籍するすべての被保険者(5月・6月に入社した人を含む)が原則として対象となります。以下の手順に沿って、正確に実務を進めていきましょう。
算定基礎届を作成・提出する4つのステップ
対象となる従業員の抽出
7月1日時点で在籍している被保険者をリストアップします。ただし、7月・8月・9月に随時改定(月額変更届)が行われる予定の人は、算定基礎届の提出は不要(または届出書に対象外の旨を記載)となります。
4月・5月・6月の「支払基礎日数」を確認する
給与の計算期間における、労働の対価として給与が支払われるベースとなった日数をカウントします。月給制の場合は暦日(休職期間等がない限り30日や31日)、時給制・日給制の場合は実際の出勤日数を数えるのが原則です。
対象月に支払われた「報酬」を集計する
4月・5月・6月に「実際に支払われた」総報酬(基本給、残業手当、通勤手当など)を集計します。4月〜6月の労働に対する給与ではなく、その月に支給された金額である点に注意してください。
標準報酬月額の計算と書類の提出
支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上など、働き方により異なる)の月の報酬総額を、その月数で割って平均額を算出します。これを「標準報酬月額特例(厚生労働省が定める等級表)」に当てはめ、7月10日までに管轄の年金事務所または健康保険組合へ提出します。
日本年金機構:https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.html
算定基礎届の書き方で間違えやすい注意点とは?
算定基礎届の書き方で最も間違えやすいのは、「支払基礎日数の数え方」と「4月〜6月に支払われた報酬の範囲」の判断です。
ここを誤ると、従業員の社会保険料や将来の年金額が正しく計算されず、遡及修正(過去に遡って直す手続き)が発生して企業・従業員双方に負担がかかります。
実務担当者が特に気をつけたい3つの落とし穴
【注意点1】変形労働時間制や欠勤がある月の「支払基礎日数」
月給制の場合、欠勤控除がなければ土日祝日を含む「暦日数」が支払基礎日数となります。しかし、欠勤控除がある場合は「就業規則上の要出勤日数 − 欠勤日数」で計算するケースなど、給与規定に準じた特殊な計算が必要になります。
【注意点2】「4月支給給与」に3月の残業代が含まれる場合
「当月末締め・翌月15日払い」などの場合、4月に支払われる給与には3月分の残業代が含まれます。算定基礎届は「何月分の労働か」ではなく、あくまで「4月、5月、6月に現実に支払われた給与」をベースに記述します。
【注意点3】リモートワーク手当や通勤手当の変更
IT企業で多くみられる「在宅勤務手当の支給(または廃止)」や「通勤定期代から実費精算への変更」は、固定的賃金の変動にあたります。これが4月〜6月に行われた場合、算定基礎届ではなく「随時改定(月額変更届)」の対象にならないかを必ずチェックしてください。
【実例】IT企業で実際にあった算定基礎届のミスとトラブル
業種・規模: 首都圏のITシステム開発業(従業員約120名)
トラブル内容: リモートワーク手当(月額5,000円)の新設が4月支給給与から行われていたにもかかわらず、担当者が「随時改定」に該当することを見落とし、全員分を通常の「算定基礎届」で処理してしまった。
結果: 繁忙期による残業増も重なり、主要メンバー15名において標準報酬月額が2等級以上変動していたことが後から発覚。10月になってから年金事務所の指摘を受け、全員分の月額変更届を再提出することに。結果として、対象従業員15名の過去数ヶ月分の社会保険料の差額徴収と、給与計算のやり直しによる追加の手間が発生した。
算定基礎届に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 算定基礎届の提出期限はいつまでですか?
A1. 毎年7月10日が提出期限です(土日の場合は翌月曜日)。期限直前は年金事務所の窓口や電子申請(e-Gov、マイナポータル等)のサーバーが大変混雑するため、6月の給与計算が確定したら速やかに準備を開始し、余裕を持って提出することをおすすめします。
Q2. 4月〜6月の途中で入社した従業員の算定基礎届はどう書きますか?
A2. 5月1日や6月1日に入社した従業員も、7月1日時点で被保険者であれば算定基礎届の提出対象となります。
ただし、4月〜6月のなかに「支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上など)」ある月が1ヶ月もない場合は、算定基礎届による計算ができません。
その場合は、入社時に届け出た「資格取得届」の標準報酬月額がそのまま引き継がれます。届出書にはその旨の修正・備考欄への記入を行います。
Q3. 算定基礎届を提出した後に間違いに気づいた場合、どうすればいいですか?
A3. すでに提出した内容を間違えた場合は、速やかに「算定基礎届の訂正届(再提出)」を行う必要があります。
年金事務所から「標準報酬月額決定通知書」が届く前であれば、正しく書き直した算定基礎届の上部余白等に赤字で「訂正」と明記して再提出するか、窓口へ連絡します。
通知書が届いた後の場合は、「被保険者報酬月額変更届(訂正)」などの手続きが必要になる場合があるため、管轄の年金事務所へ具体的な処理方法を確認してください。
まとめ:複雑な算定基礎届の作成は専門家への相談も一手
算定基礎届は、全従業員の社会保険料を決定する極めて重要な年次手続きです。特にIT企業においては、変形労働時間制の適用や、在宅勤務手当の支給変更など、個別具体的な判断を求められるシーンが少なくありません。
もし「今年の算定基礎届、自社の手当の扱いが本当に正しいか不安がある」「月変(随時改定)の見落としがないかダブルチェックしたい」とお悩みの場合は、ぜひ一度プロの社会保険労務士へご相談ください。
当事務所では、面倒な算定基礎届の作成から電子申請の代行、月額変更のシミュレーションまで、人事労務の現場をスムーズに回すためのサポートを行っています。
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監修:村里(社会保険労務士) ※本記事は執筆時点(2026年6月)の法令・情報に基づき作成しています。企業の給与規定や個別の雇用形態により判断が異なる場合があるため、実務上の具体的な決定にあたっては、事前に管轄の年金事務所や監修社労士などの専門家へ確認を行ってください。